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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)268号 判決

東京都杉並区高円寺南2丁目42番8号

原告(被参加人)

株式会社 今川

同代表者代表取締役

今川秀雄

同訴訟代理人弁理士

松浦恵治

アメリカ合衆国ニューヨーク州 10104 ニューヨーク市 アヴェニュー オブ アメリカズ 1290

参加人

フィリップス ヴァンヒューセン カムパニー

同代表者

パメラ エヌ フートキン

同訴訟代理人弁護士

松尾和子

飯田圭

同弁理士

加藤建二

大島厚

アメリカ合衆国コネチカット州 06490 サウスポートクリスタル ブランズ ロード(番地なし)

脱退被告

クリスタル ブランズインコーポレーテッド

同代表者

マイケル ビー マクリーン

同訴訟代理人弁護士

田中伸一郎

主文

原告(被参加人)の請求を棄却する。

訴訟費用は原告(被参加人)の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告(被参加人)

「特許庁が昭和63年審判第9540号事件について平成7年3月31日にした審決を取り消す。訴訟費用は参加人の負担とする。」との判決

2  参加人

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告(被参加人、以下「原告」という。)は、「IZOD」の欧文字を横書きしてなり、第23類「時計、その他本類に属する商品」を指定商品とする登録第2043274号商標(昭和60年2月21日登録出願、同63年4月26日登録。以下「本件商標」という。)の商標権者であるが、昭和63年5月19日、脱退被告は、本件商標につき登録無効の審判を請求し、昭和63年審判第9540号事件として審理され、平成7年3月31日、「登録第2043274号商標の登録を無効とする。」との審決があり、その謄本は同年4月19日原告に送達された。

2  審決の理由

審決の理由は別添審決書写しのとおりであって、その要旨は、請求人(脱退被告)の使用に係る商標中の「IZOD」の欧文字は、本件商標の商標登録出願日前より日本国内において、需要者間に広く認識されていたものと認められるから、これと同一の綴文字よりなる本件商標を、被請求人(原告)がその指定商品に使用した場合は、これに接する取引者、需要者は、その商品がアイゾッド社の、もしくはこれと何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあり、本件商標は、商標法4条1項15号の規定に違反して登録されたものであるから、同法46条1項1号の規定により無効とする、というものである。

3  審決を取り消すべき事由

審決の理由1ないし3は認め、その余は争う。

審決は、本件商標について他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であると誤って判断したものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  審決は、「IZOD」の欧文字は、本件商標の商標登録出願日前より日本国内において、需要者間に広く認識されていた旨認定しているが、誤りである。

〈1〉 審決は、「甲第20号証ないし同第28号証(注 本訴における丙第21号証ないし第29号証の各1・2。以下括弧内は本訴における書証番号を示す。)によれば、やや図案化された『IZOD』の欧文字が『ワニ』の図形及び『LACOSTE』の欧文字とともに、スポーツウエア等衣服を表示するものとして使用されていることが認められる。」(甲第1号証16頁12行ないし19行)と認定している。

しかし、いずれの形態も「IZOD」の欧文字が単独で表示されているわけではなく、著名な「ワニ」の図形マーク及び著名な「LACOSTE」の欧文字と並べて表示されているのであり、仮にこれらのマーク全体として著名であるというのであれば、それは「IZOD」の欧文字の部分から生ずる結果ではなく、著名な「ワニ」の図形マーク又は「LACOSTE」の欧文字の部分から生ずるグッドウイルの結果であるといわざるをえない。

〈2〉 審決は、「甲第3号証の1(丙第5号証の1)、同第4号証ないし同第6号証(丙第6号証ないし第8号証の各1ないし3)をみると、甲第3号証の1(丙第5号証の1)は、『‘82一流ブランド製品』として『ゴルフウエア、テニスウエア、・・・トレーナー等』について、『IZOD』の欧文字が『ワニ』の図形及び『LACOSTE』の欧文字とともに使用され、甲第4号証(丙第6号証の2)の2枚目右下には、『アイゾッド製のポロシャツに・・』とあり、同3枚目には、『特にワニ印のアメリカ版アイゾッドのものは、・・』、『アイゾッドの“アメリカ製ラコステ”に・・』の記載が認められ、甲第5、6号証(丙第7、第8号証の各1ないし3)には、『アイゾッドはアメリカの会社で、フランスのラコステ社からワニ印を使う権利を買っているのだ。・・アイゾッドは色が豊富だけど、フランスのラコステ社の作っているポロシャツの色とは少し違うのだ。これはラコステ社が寸分たがわぬものを作ってはいけないといっているからなのだ』と説明書きがあり、」(甲第1号証17頁1行ないし18行)としているが、これらの証拠の記述内容は、単に雑誌に述べられた一私見にすぎないので、疑いもなく信用することができないことは勿論のこと、仮に記述のとおりの状況であったとしても、その記述内容からは、「ワニ」の図形マーク又は「LACOSTE」の欧文字の商標が著名であるということが理解されるにすぎない。

〈3〉 審決は、「甲第2号証(丙第4号証)によれば、1979年当時すでに米国において、『ワニ』の図形と『LACOSTE』、『IZOD』の商標を付した偽造品に対する警告書が出されていることからすれば、これらの商標が米国において著名であったと推認し得るところである。」(甲第1号証18頁14行ないし19行)としているが、丙第4号証の内容は、単に一私人が自己の宣伝目的で新聞掲載した宣伝記事であり、その記述内容は客観的な事実とは認められず、この証拠を基に、米国における「IZOD」商標の著名性を認定したのは誤りである。

〈4〉 審決は、「日本において、服飾等流行を先取りする分野にあっては、それに関連する取引者、デザイナー等は、流行の最先端といわれるフランス、イタリア、米国などの流行をいち早く知り、取り入れ、日本の消費者等に紹介するということは、ごく普通に行われているばかりでなく、近時、海外への旅行者の増加、多種多様の情報媒体の発展等に伴い、一般消費者自ら、海外の流行に直接触れる機会が多いことからすれば、米国において著名な商標は、日本においても、よく知られているとみて差し支えないといえる。」(甲第1号証18頁20行ないし19頁10行)としているが、服飾の分野である故に、米国内の著名性をそのまま日本での著名性と同等に扱う判断は誤りである。昨今は、人や物さらには情報の国際交流が盛んになっているという事実はあるにせよ、日本国内での実績なくして、米国で使用されているという商標「IZOD」が、日本国内で著名であるとは認定できない。

〈5〉 結局、参加人や脱退被告が過去に日本国内で、商標「IZOD」を使用し、宣伝広告をした程度・内容からでは、いまだ著名性を認定できないものであり、これに反する審決の認定は誤りである。

この著名性が認められない以上、「IZOD」の欧文字と同一の綴文字を有してなる本件商標を、原告がその指定商品に使用した場合は、これに接する取引者、需要者は、その商品がアイゾッド社の、もしくはこれと何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあると認定することはできないこととなる。

(2)  審決は、「なお、被請求人は、本件商標の指定商品である『時計、眼鏡』等と請求人の主張する『被服』とは、売り場も異なり、非類似の商品であるから、出所の混同は起こらない旨主張するが、時計、眼鏡等と衣服、靴、かばん等は、統一されたブランド名のもとで、同一のファッションメーカーより製造、販売される場合が少なくないから、この主張は採用できない。」(甲第1号証21頁10行ないし17行)としている。

商品の類否は商品区分とは関係なく別個の基準で判断されるべきであることは当然であるが、商品の区分自体はできるだけ商品類否の判定に当たっても、その指標となり得るような配慮が加えられて作られたものである。この点から、本件商標と審決が根拠とする商標「IZOD」との「商品区分」の相違がまず考慮される必要がある。このような相違を無視して、上記のような理由で、本件商標が他人の業務に係る商品と混同を生ずるものと認定することはできない。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因の1及び2は認める。同3は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

〈1〉  米国で発行された雑誌又はちらしにおいて、「IZOD」の欧文字は、単独で使用されていたものである。また、「IZOD」の欧文字が、「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字と一緒に、もしくは「LACOSTE」の欧文字とともに、スポーツウエア等被服に関する広告又は偽造品に対する警告に使用された場合でも、「IZOD」の欧文字の部分は、「ワニ」の図形又は「LACOSTE」の欧文字とは離して表示され、ときには大文字で目立つように表示され、もしくは比較的大きく表示される等、「IZOD」の欧文字が独立の商標として認識の対象とされていたのである。

したがって、この点に関する原告の主張は事実に反し、理由がない。

〈2〉  原告は、丙第5号証の1、第6号証ないし第8号証の各1ないし3の記述内容は、単に雑誌に述べられた一私見にすぎないので、疑いもなく信用することができないことは勿論のこと、仮に記述のとおりの状況であったとしても、その記述内容からは、「ワニ」の図形マーク又は「LACOSTE」の欧文字の商標が著名であるということが理解されるにすぎない旨主張するが、上記各証拠は、丙第5号証の1以外はわが国において人気のある雑誌の記事である上、「IZOD」の欧文字が単独で著名性を取得していることは上記〈1〉のとおりである。

〈3〉  原告は、丙第4号証の内容は、単に一私人が自己の宣伝目的で新聞掲載した宣伝記事であり、その記述内容は客観的な事実とは認められない旨主張している。

しかし、丙第4号証は、「IZOD」の商標等が優れた顧客吸引力を有するため、これらを付した偽造品が市場に出回ったことから、アイゾッド社らが新聞に掲載した警告記事であって、その記載の仕方及び内容からみて真実に合致するものとして信頼できるのであって、審決が認定したとおり、米国における「IZOD」の商標の著名性を推認させる一資料となりうるものであり、原告のこの点に関する非難は当を得ないものである。

〈4〉  原告は、服飾の分野である故に、米国内の著名性をそのまま日本での著名性と同等に扱う判断は誤りである旨主張している。

しかしながら、審決は、単に「米国内の著名性をそのまま日本での著名性と同等に扱う」とするものではない。審決は、服飾等流行を先取りする分野において、日本が、米国の事情に特別に敏感であり、常に情報を収集しているという具体的な状況を考慮した上で、「IZOD」の商標が米国において単独で著名であったことが日本国内における同商標の周知性を推認させる事情になることを述べているにすぎない。その上で、審決は、日本で発行された雑誌又はちらしにおいて、ポロシャツ等被服の紹介ないし宣伝のために、「IZOD」の欧文字ないし「アイゾッド」の文字が広く使用されていたことから、「IZOD」の日本における著名性を承認したものである。ここにおいてもまた、「IZOD」の欧文字ないし「アイゾッド」の文字は、「ワニ」の図形とともに、又は「LACOSTE」の欧文字及び「ラコステ」の文字とともに使用されていた場合でも、それらとは離して表示されており、大文字で強調して又は比較的大きく表示され、「I」の部分をやや図案化して独特の書体で表記するなど、「IZOD」の部分を目立たせていたものである。特に、「IZOD」の欧文字ないし「アイゾッド」の文字は造語であり、日本の需要者に対し、外観上及び称呼上、特異な印象を与えるものであるから、これらを総合的に判断すると、「IZOD」の欧文字ないし「アイゾッド」の文字は、「ワニ」の図形又は「LACOSTE」の欧文字もしくは「ラコステ」の文字とは別個独立の商標として理解されていたものというべきである。

よって、審決は、「IZOD」の欧文字を日本においても取引者ないし需要者間に知られていたと判断したのであって、その判断は正当である。

〈5〉  原告は、本件商標と審決が根拠とする商標「IZOD」との「商品区分」の相違がまず考慮される必要がある旨主張する。

しかしながら、商標法4条1項15号の適用上重要な点は、本件商標の指定商品が著名商標「IZOD」と営業上密接な関係があり、著名商標と類似の商標を使用した場合に出所の混同の生じるおそれがあるか否かにかかる。

したがって、原告の上記主張は、その前提において誤っているものというべきである。

第4  証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(審決の理由)、及び審決の理由1(本件商標の構成、指定商品等)、同2(審判手続時の脱退被告の請求及び主張)、同3(審判手続時の原告の主張)については、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

原告の主張は要するに、(イ)アイゾッド社の取扱いに係るスポーツウエア等被服を表示するためのものとして使用されているとする「IZOD」の商標は、いずれの形態も「IZOD」の欧文字が単独で表示されているわけではなく、著名な「ワニ」の図形マーク及び「LACOSTE」の欧文字と並べて表示されているのであり、仮にこれらのマーク全体として著名であるというのであれば、それは「IZOD」の欧文字の部分から生ずる結果ではなく、著名な「ワニ」の図形マーク又は「LACOSTE」の欧文字の部分から生ずるグッドウイルの結果である、(ロ)丙第5号証の1、第6号証ないし第8号証の各1ないし3の記述内容は信用できるものではないが、仮に記述のとおりの状況であるとしても、その記述内容からは、「ワニ」の図形マーク又は「LACOSTE」の欧文字の商標が著名であることが理解されるにすぎない、(ハ)丙第4号証によって米国における「IZOD」の商標の著名性を認定することは誤りである、(ニ)服飾の分野である故に、米国内の著名性をそのまま日本での著名性と同等に扱うことはできず、日本国内での実績なくして、「IZOD」の商標が日本国内で著名であるとはいえないのであって、参加人や脱退被告が過去に日本国内で商標「IZOD」を使用し、宣伝広告をした程度・内容からではいまだ著名性を認定できず、これに反する審決の認定は誤りである、(ホ)本件商標の商標法4条1項15号該当性を判断するについては、本件商標の指定商品と「IZOD」の使用商品との「商品区分」における相違がまず考慮されるべきである、として、審決が、「IZOD」の欧文字と同一の綴文字を有してなる本件商標を、原告がその指定商品に使用した場合は、これに接する取引者、需要者は、その商品がアイゾッド社の、もしくはこれと何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがある、と判断したのは誤りであるというものである。以下検討する。

(1)  成立に争いのない丙第6号証ないし第8号証の各1ないし3、第32号証、第33号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立が認められる丙第30号証、第31号証、並びに弁論の全趣旨によれば、米国のアイゾッド リミテッド(以下「アイゾッド社」という。)は、1951年10月にフランスのラコステ社から「LACOSTE」の商標に関する使用許諾を受け、米国において、ゴルフウエア、テニスウエア等のラコステ製品を製造販売していたこと、1977年5月23日付け契約により、アイゾッド社はゼネラル ミルズ インコーポレーテッドの子会社として吸収されその傘下に収められたこと、そして、上記ゼネラル ミルズ インコーポレーテッドのアイゾッド社部門は、1985年11月1日をもって脱退被告クリスタルブランズ インコーポレーテッドに譲渡されたことが認められる。

ところで、成立に争いのない丙第9号証ないし第20号証、第21号証ないし第29号証の各1・2、第35号証、第36号証、第37号証の1・2、第38号証、第39号証の1・2、第40号証の1・2、第41号証ないし第44号証、第46号証、第48号証、第49号証、第51号証ないし第61号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる丙第45号証、第47号証、第50号証、第62号証ないし第66号証によれば、アイゾツド社は、遅くとも1956年頃には、同社の製造販売に係るスポーツシャツ等被服に「I」の文字部分をやや図案化した「IZOD」の欧文字からなる商標を使用し、米国の雑誌「GENTRY」に広告掲載したこと、ゼネラル ミルズ インコーポレーテッドの傘下に収められた後は、アイゾッド社は、主として、二重の楕円形の中に「IZOD」の欧文字(「I」の文字部分はやや図案化されている。)、「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字を上下三段に組み合わせたもの(「IZOD」の欧文字は上段に表されているものと、中央に表されているものとがあり、「IZOD」の文字は「LACOSTE」の文字よりやや大きく表され、書体も異なっている。)が、アイゾッド社が取り扱うスポーツウエア等被服を表示するものとして使用され、米国の雑誌「THE NEW YORKER」等に継続的に広告掲載されたこと、その他、「IZOD」の欧文字単独のもの、「IZOD」の欧文字と「LACOSTE」の欧文字を組み合わせたものも、アイゾッド社が取り扱うスポーツウエア等被服を表示するものとして、本件商標の登録出願日の相当以前から米国の雑誌やちらしに広告掲載されたことが認められる。

上記認定のとおり、「IZOD」の欧文字と「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字を組み合わせたものは、本件商標の登録出願日の相当以前から、アイゾッド社が取り扱うスポーツウエア等被服を表示する商標として使用され、米国の雑誌にも継続的に広告掲載されていたことからすると、米国においては、本件商標の登録出願日前より、「IZOD」の欧文字を含む上記商標は周知著名であったものと推認される。そして、「IZOD」の欧文字単独のものや「IZOD」の欧文字と「LACOSTE」の欧文字を組み合わせたものも、本件商標の登録出願日の相当以前から米国の雑誌等に広告掲載されたこと、「IZOD」の欧文字の「I」の文字部分はやや図案化され、「IZOD」の欧文字と「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字を組み合わせたものにおいては、「IZOD」の欧文字が「LACOSTE」の文字よりやや大きく上段あるいは中央に表され、書体も異なっていることに加えて、「IZOD」の語が特定の語義を有しない造語であって、需要者に特異な印象を与えるものと考えられることからすると、「IZOD」の欧文字部分も上記商標の著名性の形成に大いに寄与したものと推認され、「ワニ」の図形や「LACOSTE」の欧文字の部分から生ずるグッドウイルのみによって上記著名性が形成されたものとは認め難い。

したがって、原告の上記(イ)の主張は採用できない。

また、成立に争いのない丙第4号証は、1979年2月13日付けの新聞に掲載した、「ワニ」の図形と「LACOSTE」、「IZOD」の商標を使用した偽造品に対する警告記事であって、米国における「IZOD」の商標の著名性を推認させる一資料となりうるものであるし、審決は、同号証のみによって上記著名性を認定しているわけではないから、原告の上記(ハ)の主張は当を得ないものである。

(2)  本件商標の登録出願日前である1979年8月1日に発行された雑誌「MEN’S CLUB」(株式会社婦人画報社発行。丙第6号証の1ないし3)には、「特に、ワニ印のアメリカ版 アイゾットのものは、ステータスにもなっている。」との記載があり、同じく1980年6月25日と1981年4月10日に発行された雑誌「POPEYE」(平凡出版株式会社発行。前記丙第7、第8号証の各1ないし3)には、「アイゾッドは身頃の長さがバツグンだ。」という表題で、「アイゾッドはアメリカの会社で、フランスのラコステ社からワニ印を使う権利を買っているのだ。・・・アイゾッドは色が豊富だけど、フランスのラコステ社の作っているポロシャツの色とは少し違うのだ。これはラコステ社が寸分たがわぬものを作ってはいけないといっているからなのだ。」との記事とともに、上下に「IZOD」の欧文字と「LACOSTE」の欧文字を表し、「IZOD」の左上に小さく「ワニ」の図形を表したタッグが掲載されていることが認められる。また、その記載内容から、一流ブランド製品取扱専門店「ゲット」が昭和57年4月頃に作成したものと認められる「‘82一流ブランド製品 ブランドフェア」のちらし(丙第5号証の1)には、「IZOD」の欧文字、「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字を上下三段に表示した商標が記載されていることが認められる。

原告は、上記丙第5号証の1、第6号証ないし第8号証の各1ないし3の記述内容は信用できるものではない旨主張するが、同記述内容が虚偽であると認めるべき事情は存しない。また、原告は、上記丙各号証の記述内容からは「ワニ」の図形又は「LACOSTE」の欧文字の商標が著名であることが理解されるにすぎない旨主張するが、審決は、上記丙各号証に記載されている事項に基づいて、「日本においても、本件商標の登録出願日前において、『IZOD』の欧文字の含まれる商標が米国のアイゾッド社製のラコステ製品であり、フランスのラコステ社の製造したものとは区別されてある程度紹介され、宣伝されていたことが認め得るところである。」(甲第1号証18頁8行ないし13行)と認定しているのであって、上記丙各号証によってのみ、「IZOD」の商標の著名性を認定しているわけではないし、上記丙各号証の記述内容に照らしても、「ワニ」の図形又は「LACOSTE」の欧文字の商標のみが著名であることが理解されるにすぎないというものでもない。

したがって、原告の上記(ロ)の主張は当を得ないものである。

(3)  上記(1)に認定のとおり、米国においては、本件商標の登録出願日前より、「IZOD」を含む商標が著名であったものと推認されるところ、上記(2)に認定のとおり、日本国内においても、本件商標の登録出願日前において、「IZOD」の欧文字を含む高標が米国のアイゾッド社製の製品を表示するものとしてある程度紹介され、宣伝販売されていたことに加えて、日本において、服飾等流行を先取りする分野にあっては、それに関連するデザイナー、取引者等は、流行の最先端をいくといわれるフランス、イタリア、米国などにおける流行をいち早く知り、取り入れ、日本の消費者等に紹介することはごく普通に行われていることであり、近時、海外への旅行者の増加、多種多様の情報媒体の発展等に伴い、一般消費者自ら、海外の流行に直接触れる機会が多いことは公知の事実であることからすると、審決の説示するとおり、米国において著名な商標は、日本においても良く知られているとみて差し支えないものと考えられることからすると、本件商標の登録出願日当時、日本においても、「IZOD」を含む前記商標はアイゾッド社製のスポーツウエア等被服を表示するものとして、取引者、需要者によく知られていたものと認めるのが相当である。

そして、上記(1)に認定のとおり、「IZOD」の欧文字の「I」の文字部分はやや図案化され、「IZOD」の欧文字と「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字を組み合わせたものにおいては、「IZOD」の欧文字が「LACOSTE」の文字よりやや大きく上段あるいは中央に表され、書体も異なっていることに加えて、「IZOD」の語が特定の語義を有しない造語であって、需要者に特異な印象を与えるものと考えられることからすると、上記商標中の「IZOD」の欧文字は、本件商標の登録出願日前より日本国内において、取引者、需要者間に広く認識されていたものと推認される。

原告は、服飾の分野である故に、米国内の著名性をそのまま日本での著名性と同等に扱うことはできず、日本国内での実績なくして、「IZOD」の商標が日本国内で著名であるとはいえないのであって、参加人や脱退被告が日本国内で商標「IZOD」を使用し、宣伝広告をした程度・内容からではいまだ著名性を認定できない旨主張する(上記(二))。

しかし、審決は、上記商標が米国において著名であることから直ちに日本国内での著名性を認定しているわけではなく、上記認定、説示したところに照らしても、上記主張は採用できない。

(4)  原告は、本件商標の商標法4条1項15号該当性を判断するについては、本件商標の指定商品と「IZOD」の使用商品との「商品区分」における相違がまず考慮されるべきである旨主張するが(上記(ホ))、同条項においては商品の類似性は要件とされておらず、商品出所の混同のおそれは、「商品区分」における相違により決すべき事項でもないから、原告の上記主張は採用できない。

(5)  以上によれば、本件商標を、原告がその指定商品について使用した場合は、これに接する取引者、需要者は、その商品がアイゾッド社の、もしくはこれと何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるとし、本件商標は商標法4条1項15号の規定に違反して登録されたものであるとした審決の判断に誤りはないものというべきであり、他に、この判断を誤りとすべき事情を見出すことはできない。

したがって、原告主張の取消事由は理由がない。

3  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

昭和63年審判第9540号

審決

アメリカ合衆国 コネチカット州 06490 サウスポート クリスタル ブランズ ロード(番地なし)

請求人 クリスタル ブランズ インコーポレーテッド

東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 新東京ビル 中村合同特許法律事務所

代理人弁理士 中村稔

東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 新東京ビル 中村合同特許法律事務所

代理人弁理士 松尾和子

東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 新東京ビル 中村合同特許法律事務所

代理人弁理士 熊倉禎男

東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 新東京ビル 中村合同特許法律事務所

代理人弁理士 加藤建二

東京都杉並区高円寺南2丁目42番8号

被請求人株式会社 今川

東京都港区赤坂1丁目3番5号 赤坂アビタシオンビル7F 松田・松浦法律特許事務所

代理人弁理士 松浦恵治

上記当事者間の登録第2043274号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

登録第2043274号商標の登録を無効とする。

審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

1.本件登録第2043274号商標(以下「本件商標」という。)は、「IZOD」の欧文字を横書きしてなり、第23類「時計、その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和60年2月21日に登録出願、同63年4月26日に登録されたものである。

2.請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第34号証(枝番を含む)を提出している。

(1)請求人は、婦人服、子供服、紳士用スポーツウェアの製造、販売、輸入を幅広く行っている法人であるが、その営業活動の一つとして、1951年10月1日にフランスのラコステ社から著名なラコステの商標に関する使用許諾を受け、ラコステ製のテニス用、ゴルフ用シャツその他男性用被服の販売をしていた(なお、ワニの図形につて米国のアリゲータ社が商標権を有しているため、これからも使用許諾を受けている)。請求人は、その男性服部門をアイゾット・ディビジョンの名称で活動させてきたが、1959年12月1日にこの部門を独立させて、商標の使用権については、アイゾッド リミテッド(IZOD Ltd.

以下「アイゾッド社」という。なお、請求人は、審判請求書の理由中において「IZOD」を「アイゾット」と表記しているが、以下「アイゾッド」と表記する。)に譲渡した。その結果、アイゾッド社はラコステとワニマークの商標についての使用許諾を得て「IZOD LACOSTE」商品を米国を皮切りに大々的に販売していたものである。請求人(「異議申立人」と記載してあるが、誤記と認められる。)は、このアイゾッド社を子会社の一つとして、傘下に収めている。

(2)請求人は、前記のように、アイゾッド社を傘下に入れることによって、ラコステ社及びワニマークの商標についての使用権を取得し、米国においてラコステの商品を製造し、大規模な宣伝、拡販活動を展開し、昭和51年、52年頃から米国内にアイゾッドブームを巻き起こし、米国のラコステシャツといえば「IZOD LACOSTE」のことを意味するまでになった(甲第1号証)。

甲第1号証が「IZOD」の記述を欠くのは、米国のラコステシャツといえば、米国でラコステのシャツを製造している米国法人、アイゾッド社のラコステシャツであることが自明なことであり、むしろ「IZOD」の著名性を立証するものである。

(3)アイゾッド社の商品は、フランス製ラコステとは異なり服地の色に合わせて青、赤、黄等各種あり、フランス製ラコステとは別に「IZOD LACOSTE」は著名なものとなり、その偽造品まで出回るようになった(甲第2号証)。

甲第2号証の記事は、アイゾッド製品を扱う8社共同の警告記事であり、その警告の規模の大きさを知ることができ、米国において、「IZOD」、「LACOSTE」製品の偽造品が相当数で回っていることが明らかであり、また、偽造品が出回るほどこれらの製品が著名であることは明かである。また、一般にファッション業界(ここでファッション業界とは、被服、装飾品、バッグ、シューズ、眼鏡等の身につけるファッシヨン性を有する商品をいう)は、世界の流行に関心を払っているのが通常であるから、わが国のファッション業界が米国で流行している「IZOD」、「LACOSTE」製品を知らないはずはなく、それ故、甲第2号証はわが国のファッション業界における商標「IZOD」の周知、著名性を容易に推測させるものである。また、甲第2号証の記事中、「IZOD」、「LACOSTE」及び「ワニの図形」の商標は各々〈R〉マークを伴って、別個対等の登録商標として扱われており、被請求人が主張するように、当該記事中「ワニの図形」の商標のみにポイントが置かれている訳ではない。

また、最近の市場の国際的一体化の傾向及び商標の国際通用性を鑑みるときに本件商標の登録適否について属地主義に拘泥することが不合理であることはいうまでもない。すなわち、外国の商標のわが国における周知、著名性の認定に当たっては、当該商標について外国で周知なことが十分に勘案されなければならない。

ここで翻って、本件を考案するに、請求人の「IZOD」製品は本国のみならず、ブラジル、チリ、中国等23力国に及ぶ世界の多数の国でライセンシーの下に製造販売されている(なお、この中には「IZOD」製品の輸入のみをしている国は含まれていない)。また、請求人は「IZOD」に関連する商標について、世界各国で約80もの商標登録を取得しており(甲第30号証)、「IZOD」製品が世界的な商標であることは明かである。したがって、請求人の「IZOD」商標の世界的な著名性は、我が国内における、当該商標の周知、著名性について十分に参酌されるべきであり、わが国のファッション業界における「IZOD」の周知、著名性は容易に推認し得るものである。

(4)一方、日本においても、米国の「IZOD LACOSTE」のブームの影響を受け、「IZOD LACOSTE」を付したシャツ等被服の輸入の要求が高まり、新進貿易株式会社がアイゾッド社の製品を輸入販売したことによって、若者に爆発的な人気を呼び、青山や新宿において若者のファッションとなり、大量に販売されるようになった(甲第3号証の1~4)。

その後、1978年8月1日発行のファッション雑誌「メンズクラブ」208号において米国でのアイゾッドブームの紹介と日本での販売店が紹介され(甲第1号証)、また1979年8月1日発行の「メンズクラブ」においても上述と同様の記事が掲載され(甲第4号証)、わが国においても「IZOD LACOSTE」のブームが惹き起こされたものである。

(5)「IZOD」製品は、「The New Yorker」等の米国雑誌に継続的に広告されており、この雑誌はわが国においても配布されている(甲第8号証ないし同第28号証)。また、「IZOD LACOSTE」は、しばしば日本文で「アイゾッド ラコステ」と表示され、上述のように日本でも爆発的な人気を呼んだが、その後も若者向け雑誌「POPEYE」に掲載され、フランス製ラコステとは異なった特徴を有するものとして、大衆に宣伝している(甲第5号証及び同第6号証)。このように「IZOD」は、日本おいて、被服については「LACOSTE」及びワニの図形とともに使用されているが、商標の希薄化を避けるために請求人は、「IZOD」を常に「LACOSTE」から離して、しかも「LACOSTE」よりも大きく表示して、単独の商標として使用しており、「IZOD」が単独の商標として著名となっていることは明かである。仮に、請求人の商標が「IZOD LACOSTE」として世人に認識されたとしても、「IZOD LACOSTE」をフランス製品と識別するために世人は、これを単に「IZOD」または「アイゾッド」とのみ略して呼ぶ場合が多い。

なお、「IZOD」または「IZOD LACOSTE」が著名商標であることは、甲第3号証の1~4の広告チラシ及び同第5、6号証の記事の中で、「IZOD」製品が一流ブランド製品の一つとして扱われていることからも明らかである。

(6)さらに、「IZOD」は、ゼネラル ミルズ インコーポレーテッド(以下「ゼネラル ミルズ社」という。)によって昭和38年3月7日から20年間、第17類「被服、布製身回品、寝具類」について登録され(登録第606583号、存続期間満了により消滅 甲第7号証)、日本において使用された結果、請求人ないしはアイゾッド社に係る被服関係商品を表示するものとして取引者、需要者に認識されているものである。

なお、請求人は、第17類において公告された「IZODCLUB」(商願昭59-90907号)に対して登録異議申立てを行ったが、異議申立人の商標「IZOD」の周知性を理由に登録異議申立てについて理由ありとの決定を受けている。上記先例と本件とを区別すべき合理的根拠は何ら見出せないから、本件も上記先例と同様に判断されるべきである。

(7)本件商標は、著名商標「IZOD」と実質的に全く同一である。

また、商品についても、本件商標の指定商品中の「眼鏡、腕時計」等は被服同様身につけるものであり、ファッション性の高い商品であり、いずれもトータルファッションと称して、同一のデザイナーによって創作され、同一の製造者、販売者によって、製造、販売されていることがよくある(甲第31号証)。したがって、請求人の商標と同一の構成からなる本件商標を被請求人が第23類の商品に使用すれば、取引者、需要者は、その出所を混同するおそれがあることは否定できない。

(8)被請求人は、本件商標の出願当時、請求人の「IZOD」または「IZOD」製品について知らないで本件商標を独自に採択したとは到底考えられない。特記すべきは、被請求人は昭和57年ラコステ偽造品の販売で摘発されていることである(甲第33号証及び同第34号証)。前述したとおり、「IZOD」は請求人及びアイゾッド社の世界的に周知、著名な商標であり、かかる商標に関する権利は、本来、請求人及びアイゾッド社に帰属するものである。

(9)以上詳述したように、本件商標は、商標法第4条第1項第10号または同第15号の規定に該当し、その登録は、同法第46条の規定により無効にされるべきである。

3.被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べている。

(1)本件商標の「IZOD」は、商標法第4条第1項第10号もしくは同第15号に該当するものではない。請求人は、「IZOD」の商標が被服関係について広く知られた商標であると主張するが、これが周知または著名な商標であるとは到底認められない。

(2)〈1〉甲第1号証によれば、商標「ラコステ」についての記述は認められるが、商標「IZOD」については全く記述がない。このことより商標「IZOD」の周知・著名性について、甲第1号証は何も立証していない。

〈2〉甲第2号証は、一私人が新聞に掲載した広告記事と思われ、そのポイントは商標「ワニの図形」にあると思料される。ましてやその記事中には米国における登録商標のことを扱っているのであって、その記事をそのまま日本市場における商標の登録状況や周知・著名性の判断に強引に結び付ける訳にはいかない。本件商標の問題は、日本市場における問題としてとらえるべきである。

〈3〉甲第3号証の1~4には「IZOD」と「LACOSTE」の文字及び「ワニの図形」とが表示された部分が存在することは分かるが、このことをもって単に「IZOD」商標が単独で当然の如く周知・著名であるなどとは到底認められない。例えば、第17類における商標「Pierre balmain」(商公昭50-64424)より単に「Pierre」の部分が周知・著名であるといえるか否かは疑問である。この例で仮に「Pierre」の部分が周知・著名であるとすれば、他人の商標である「Pierre CARDIN」(商公昭44-37015)が存在する以上、「Pierre balmain」が同じ第17類を指定商品として商標登録されることはあり得ないはずである。

この例からも明白なとおり、請求人が主張する「IZOD」の商標が取引者・需要者にとって周知・著名であると本件商標の出願時において判断されている事実はないと認められる。

〈4〉甲第5号証及び同第6号証中、マーキングされた部分に片仮名文字「アイゾッド」、欧文字「IZOD LACOSTE」の記載があることは分かるが、この記載をもって商標「IZOD」が周知・著名であるとはいえない。この記載からみれば、「LACOSTE」という商標の識別マークの一つとして「IZOD」という商標が付されており、これとは別に「IZOD」の付されていない「LACOSTE」が存在することが判明するだけであり、このような記事または広告が存することを理由として商標「IZOD」が周知・著名であるとは認められない。

〈5〉甲第8号証ないし同第28号証は、雑誌名配布年月日、発行者が不明であり、わが国においてこれらが配布されたかは全く不明である。また、甲第8号証ないし同第28号証には「IZOD LACOSTE」が一体的に表示されているものであるから、単にこの表示から「IZOD」のみが引き出されることはなく、強いていえば「LACOSTE」と略して呼ぶことはあるかも知れない。

〈6〉請求人とアイゾッド社とゼネラル ミルズ社の実情及び相互関係は全く不知。したがって、これらの会社の実情がどうであれ、各会社の活動より「IZOD」の周知・著名性が判断されることはあり得ない。

また、甲第7号証により、「IZOD」の商標について過去に登録を受け、更新手続きを失念したのだといっても、それをもって過去20年間日本において「IZOD」の商標を使用し著名になったとの主張は強弁にすぎない。

請求人会社が世界的に活動をしている被服関係の会社を多く子会社として傘下に置き、世界各国で活動しているとの主張は不知である。たとえ、請求人会社が世界各国で活動している事実があったとしても、それをもって商標「IZOD」の周知・著名性が判断されることはない。

(3)本件商標は、第23類「時計、その他本類に属する商品」を指定商品とするものであるから、請求人の主張する第17類「被服関係」の商標とは非類似の商品に関する商標である。第17類と第23類(「第21類」としているが、誤記と認められる。)の商品は売り場も異なり、商品の出所の混同が起こらないことは明白である。

(4)なお、請求人は、甲第29号証の登録異議申立てについての決定謄本を援用して「IZOD」の周知性があるかの如く主張しているが、上記異議決定に基づく拒絶査定に対しては、被請求人は査定不服審判を請求している。したがって、上記異議決定の判断が最終的に支持されている訳ではないので甲第29号証が本件審判の判断に影響を与えることはない。

(5)よって本件商標は、請求人の主張する如き、他人の周知・著名商標と同一または類似のものであるなどということはない。

5.よって検討するに、審判請求の理由、甲第4号証ないし同第6号証、平成6年11月22日付上申書及びこれに添付された参考資料(1)、(2)を総合すれば、アイゾッド社は、ゼネラル ミルズ社の一部門であり、フランスのラコステ社から、「LACOSTE」の商標に関する使用許諾を受け、米国において、ゴルフウェア、テニスウェア等のラコステ製品の製造、販売をしている会社であったが、その後、同社はゼネラル ミルズ社より請求人に譲渡され、請求人の傘下となった経過が認められる。

そして、本件商標の登録出願日前に発行されたと明らかに確認し得る甲第20号証ないし同第28号証(請求人は、これらについて審判請求理由中で「米国雑誌」と述べ、被請求人は、これに対して、争うところがない。)によれば、やや図案化された「IZOD」の欧文字が「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字とともに、スポーツウェア等衣服を表示するものとして使用されていることが認められる。

また、いずれも本件商標の登録出願日前に発行されたと確認し得る甲第3号証の1、同第4号証ないし同第6号証をみると、甲第3号証の1は、「’82一流ブランド製品」として「ゴルフウェア、テニスウェア、・・トレーナー等」について、「IZOD」の欧文字が「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字とともに使用され、甲第4号証の2枚目右下には、「アイゾッド製のポロシャツに・・」とあり、同3枚目には、「特にワニ印のアメリカ版アイゾッドのものは、・・」、「アイゾッドの“アメリカ製ラコステ”に・・」の記載が認められ、甲第5、6号証には、「アイゾッドはアメリカの会社で、フランスのラコステ社からワニ印を使う権利を買っているのだ。・・アイゾッドは色が豊富だけど、フランスのラコステ社の作っているポロシャツの色とは少し違うのだ。これはラコステ社が寸分たがわぬものを作ってはいけないといっているからなのだ」と説明書きがあり、ポロシャツについて「IZOD」の欧文字が「ワニ」の図形と「LACOSTE」の欧文字とともに使用されている。また、大きく書された「アイゾッド」の片仮名文字も認められる。

してみると、上記事実からすれば、「IZOD」の欧文字は、アイゾッド社の取扱いに係るスポーツウェァ等を表示するためのものとして「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字とともに使用され、米国において、本件商標の登録出願日前に発行されたと確認し得る雑誌だけでも、相当宣伝広告されていたこと及び日本においても、本件商標の登録出願日前において、「IZOD」の欧文字の含まれる商標が米国のアイゾッド社製のラコステ製品であり、フランスのラコステ社の製造したものとは区別されてある程度紹介され、宣伝されていたことが認め得るところである。

また、甲第2号証によれば、1979年当時すでに米国において、「ワニ」の図形と「LACOSTE」、「IZOD」の商標を付した偽造品に対する警告書が出されていることからすれば、これらの商標が米国において著名であったと推認し得るところである。

そして、日本において、服飾等流行を先取りする分野にあっては、それに関連する取引者、デザイナー等は、流行の最先端といわれるフランス、イタリア、米国などの流行をいち早く知り、取り入れ、日本の消費者等に紹介するということは、ごく普通に行われているばかりでなく、近時、海外への旅行者の増加、多種多様の情報媒体の発展等に伴い、一般消費者自ら、海外の流行に直接触れる機会が多いことからすれば、米国において著名な商標は、日本においても、よく知られているとみて差し支えないといえる。

してみれば、「IZOD」の欧文字を含む商標は、わが国においても紹介、広告されていた事実も加えると、日本においても、取引者のみならず、一般の需要者にも知られていたと判断するのが相当である。

ところで、上記米国、日本でスポーツウェア等に使用されている商標は、前記のとおり、「IZOD」の欧文字、「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字の組み合わせを要部とするとものであるところ、「IZOD」の欧文字は、「I」の文字部分を図案化し、「LACOSTE」の欧文字とは、その書体を異にするばかりでなく、いずれの場合も、看者の注意を最も惹き易い上段か、あるいは中央に大きく表されており、他の構成要素と分離して観察され易いものとえるから、それ自体独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものとみるのが相当である。

また、前記した甲第5、6号証の説明書きより、「IZOD」の欧文字を有する商標を付したポロシャツ等は、フランスのラコステ製の商品と区別さて使用されていたこと、「IZOD」の語が商標として採択され易い親しまれた成語ではなく、特定の語義を有しない造語よりなるものと認められ、わが国においては、この綴文字及びこれより生ずる称呼は、むしろ特異なものとして印象付けられることからすれば、「IZOD」の欧文字自体、独立した商品区別標識として強く印象付けられることは不自然とはいえない。

そうとすれば、請求人の使用に係る商標中の「IZOD」の欧文字は、本件商標の商標登録出願日前より日本国内において、需要者間に広く認識されていたものと認められるから、これと同一の綴文字よりなる本件商標を、被請求人がその指定商品について使用した場合は、これに接する取引者、需要者は、該商品がアイゾッド社の、もしくはこれと何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものと判断するのが相当である。

なお、被請求人は、本件商標の指定商品である「時計、眼鏡」等と請求人の主張する「被服」とは、売り場も異なり、非類似の商品であるから、出所の混同は起こらない旨主張するが、時計、眼鏡等と衣服、靴、かばん等は、統一されたブランド名のもとで、同一のファッションメーカーより製造、販売される場合が少なくないから、この主張は採用できない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により無効とする。

よって、結論のとおり審決する。

平成7年3月31日

審判長 特許庁審判官(略)

特許庁審判官(略)

特許庁審判官(略)

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